シニアライフ
 

橋本白道さん ベアトリースさん
美郷町上野 
「陶芸工房くじら」経営
「窯の形が似ているから」と、自宅兼工房にベアトリースさんが名付けた「陶芸工房くじら」。夫妻のためにと町内の有志による支援グループ「ヴィエント」も結成され、今年の5月には自宅ギャラリーで作陶展の開催も実現。地域のお年寄りたちには「作品が売れなくて生活に困ったらうちにおいで」と言われるほど、すっかり地域に溶け込んでいる様子だ。

ほぼ完成したという「陶芸工房くじら」の窯場。
火力を必要とするための大量の薪もとりあえ
ず確保し、あとは作陶にとりかかるだけ。


住まいの2階に設けられたギャラリーには、お
二人の作品が並ぶ。支援グループ「ヴィエン
ト」がサポートした作陶展もここで行われた。


理想の創作環境を求め たどり着いた島根で ついぞ知らぬ日本の魅力を発見
  10年近く北欧や東欧に遊学、陶芸以外にもビデオ映像の製作や穴窯プロジェクトなどにも携わってきた陶芸家の橋本白道さん。
 島根に来るまでは、JICA(国際協力機構)の陶芸学校プロジェクトの立ち上げでドミニカ共和国に赴任していた。そんな橋本さんが、リトアニア出身で同じく陶芸家の奥様ベアトリースさんとともに、理想的な創作環境を求めて美郷町にやってきたのが昨年の12月。「日本に帰るつもりはなかったんだけど、ちょっとした『縁』があったから」とスーツケースひとつ抱えて島根にやって来た。「着いた日は、あまりの寒さに慌てて布団を買いに行った」というほど島根(美郷町)の予備知識がなかった。
 そんな波乱の幕開けも、「ここに決めたのは、窯からSLのように出る煙を地域の人たちが受け入れてくれたこと、妻が美郷町に興味を持ったこと、あとは寝泊まりできる場所さえあれば」とは、いかにも旅慣れしている夫妻らしい。「カナダと美郷町、どちらに行こうか迷った時、妻にとっては勿論日本の方が新鮮だった。また、この地域にはお年寄りがたくさんおられるが、みなさん精神的にも肉体的にもまだまだ若い。私も負けてはいられないと思って」と笑う。言葉のコミュニケーションで苦労しがちなベアトリースさんに、「仲良くしすぎじゃないの?」と釘を刺されるほど、今では地域との交流が深まっているようだ。
 生活環境としては問題なくても、実際の創作活動となると話は別。窯に使用する木の確保に苦労し、自ら山に入って木を調達する姿を見た人々から、「林業に転向したのか?」とからかわれるほど。
 「創作は種を蒔いて収穫まで5〜10年は当たり前。美郷町に来た『縁』も同じで、時間をかけて見えてくるものがあるはず。今はそれを楽しみにしているんです」。来年5月には松江市で作陶展を控え製作にますます熱がこもる。
 環境をありのままに受け止めながら、自らの生き方を貫く。それが橋本夫妻の流儀のようだ。

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