晴耕雨読 - ある団塊世代のセカンドライフ

亡き母親の介護経験を生かして宅老所を営む第二の人生

 

認知症の母の介護経験を活かして

 隠岐の島町の西側、那久地区。そこに築150年の古民家を改装した1軒の宅老所がある。宅老所「くすもと」。この施設を開いたのが安部才朗さん、明子さん夫妻だ。那久出身の才朗さんの提案で、平成17年にUターン。第2の人生をスタートさせた。
「30年暮らしていた千葉で、私と妻のふたりの母親の介護を、妻を中心に家族全員でしていました。その経験を生かして島のお年寄りのケアができたら、と思い、宅老所を開きました」(才朗さん)

 千葉での介護の様子は、才朗さんの著書「みっちゃんとふみちゃん〜痴呆症の母と過ごした家族介護の日々」「絆〜痴呆症の母を支える手作り家族」に、詳しく記されている。

 東京で事業を営んでいた才朗さんは、ホームヘルパー2級の資格をとり、明子さんも最後まで献身的な介護を続けた。
「ふたりの母親の介護で、優しい言葉が大切だということ、一人ぼっちにしないことが大切だということを学びました。今は、入所している皆さんが、家族と暮らすように和やかな雰囲気で過ごせるようにと、心がけています」(明子さん)

多忙な毎日の中に充実した喜びがある

 朝6時、才朗さんは近くの港に顔を出す。今日の食材の仕入れだ。毎日とれたての魚が格安で手に入るため、「くすもと」の食事では、豪華なお造りが並ぶことも珍しくない。
「子育てをしていたり、事業をしていた頃と違って、お金はそんなに必要ない暮らしができるんですよね。それが、一番の贅沢かもしれません」(才朗さん)

 都会育ちの明子さんも、隠岐の大自然に触れて、気づくことがたくさんあったという。
「庭にでると道に蛇がいたり、買い物に行くのも不便だったりと、最初は驚きました(笑)。でもその不便さが、人間らしい生活を作ってくれてるんですよ。自然しかないから、飾りがいらない。そんな暮らしが、本当に大好きなんです」(明子さん)

「くすもと」の和やかな雰囲気を象徴するような安部さんの家族。

福音館書店から発行された、「かわからのおくりもの」。
奥さんの明子さんの貼り絵を本にしたもの。

入所者の皆さんと”歌”をうたう安部さん夫婦。本当に楽しそうなひとときだ。

 入所者のお世話や食事の用意など、1日のほとんどをお年寄りたちと過ごしながら、安部さん夫妻の1日は終わる。
「私たちは、入所者のみなさんと同じ部屋で寝ています。そうすると、みなさんの心や体の調子がとてもよく分かるんです。これがうちならではの、お年寄りとのコミュニケーションの方法かもしれませんね」(才朗さん)

リハビリのために始めた切り絵が絵本に

 リビングには、大小さまざまな「貼り絵」の作品が並んでいる。明子さんの作品だ。最初は認知症の母のリハビリに始めたものだが、ふたりの母が亡くなった今でも制作を続けている。その作品が、今年8月、絵本となって出版されることになった。「かわからのおくりもの」(福音館書房)だ。
「貼り絵は母との共同作品だと思っています。これからは切り絵を続けながら、自分の時間を楽しんでいきたいと思います」(明子さん)

 「くす もと」には才朗さんと明子さんに加えて、もう1人若い介護スタッフがいる。息子さんの大助さんだ。才朗さんは、ゆくゆくは、この仕事を息子さんに譲りたいと考えてる。
「これからは、日本一の宅老所を目指したいという息子と、絵本作家としても頑張りたいという妻のサポートをしていきたい。そんな夢を持つ暮らしが、とても楽しいんですよ」(才朗さん)

 2人のセカンドライフは、新たなチャレンジと喜びにあふれているようである。

安部 才朗さん

島根県出身(60歳)

明子さん

徳島県出身(56歳)

2人の母親の介護経験を生かし、NPO法人介護福祉サービス「くすもと」を設立。隠岐の島町那久に家族で移住し、古民家を改装した建物で宅老所を開いている。