晴耕雨読 - ある団塊世代のセカンドライフ

第二の人生でふるさとの価値を再発見 新たな生きがいもくれた農村生活

 

お金や物は少しでいい自然の中で暮らす贅沢

 出雲市佐田町の窪田地区。標高350メートルの緑豊かな山あいに初夏の爽やかな風が吹き抜ける。渡部正毅さんは、中学校卒業と同時に離れたこの地へ10年前に妻とともにUターンした。ここでの生活は、米や野菜は自給自足、冬には薪ストーブ、携帯電話は持たない、「出雲市街へ出るのも年に10回ぐらい」とすっかり田舎暮らしの達人だ。

 朝起きると、羊にエサをやり、犬の散歩をすることから1日が始まる。畑の草刈りや水路の掃除など作業は山積みだが、自然の中ならではの楽しみも多いという。四季折々に変化する風景を眺め、鳥たちを観察するといった時間こそ、何よりの贅沢と感じるようになった。
「趣味もいくつか持ったけど、自然を相手に格闘している方が楽しいです。薪にする木を切り倒すにも、どうしたら上手くできるか一晩考えますよ。上手く倒せたら『今日はこれで終わり。ビール、ビール』ってね」と、心から幸せそうな朗らかな笑顔になった。

“郷に入っては郷に従え”で地域の信頼を得る

 渡部さんは陸上自衛隊の自衛官だった。入隊後茨城県の航空学校で学び、機体整備や飛行場管理といった技術職のほか、航空ショーや音楽祭などのイベント運営、自治体との連絡窓口業務など、全国を転々としながらさまざまな仕事を精力的にこなす日々。「長男としていつかは島根に帰ろうと思っていた」ものの、人脈もなく、農業経験もないため、故郷で暮らすことへの不安も大きかった。

 そんな渡部さんの大きな力になったのが、地元の同窓会の存在だ。定年直前の勤務地は松江だったため、何かと旧友を頼りながら、人脈作りや農業を始める準備はスムーズに進めることができた。

 しかし最大の不安の種は、集落の中でうまくやれるかどうかだったという。昔からのしきたりを重んじ、本音と建前が区別しづらい出雲人の性質は、県外暮らしが長かった渡部さんにとって馴染めるかどうかが心配だった。

のどかな景色の自宅の庭にて。
時がゆっくりと流れているような感覚になる。

地域の人々と共に農作業。
稲の苗の鮮やかな緑が田圃に映える。

羊は、畑の草取りにも一役買ってくれる農作業のパートナー。

 そこで、まずは周囲を知ることから始めようと、集落の会合に参加し、世話役も進んで引き受けた。渡部さんのそんな姿に、地域の人々も共感し温かく受け入れてくれた。
「人の倍ぐらい役をさせてもらったのが良かった。分からないことは教えてもらわんとできんから」。

 長年離れていた故郷のために今働いているのは、「40年も留守にしていた間、両親の面倒を見てくれた地域への恩返し」という感謝の気持ちが根底にある。

1人よりみんなで支え合うから楽しい

 また、近隣5自治会で作る「有限会社グリーンワーク」の活動への参加も“恩返し”のひとつだ。渡部さんも設立に関わったこの会社では、地域の高齢者や女性が主体となって、米作りや羊の放牧、福祉サービスなどを共同で行っていて、少子高齢化が進む農村を支える取り組みとして農政関係者からも注目を集めている。そして現在は、羊毛を製品化する計画や、窪田地区全域をエリアとした新しい事業体を立ち上げる構想に向けて動いているという。

 現役時代とは違う生きがいを見つけた忙しい日々。
「この地域が限界集落になる前に、自活をしていけるよう道筋を付けるのが私の役目かな」町の元気を守りたいと思うこの気持ちこそ、渡部さんがこの地でのセカンドライフに満足している何よりの証拠と言えそうだ。

渡部 正毅さん

島根県出身(64歳)
自宅周辺は見渡す限り田畑と山というのどかな環境の中、妻、羊6頭、愛犬、愛猫と暮らす。「有限会社グリーンワーク」の一員として、田植え作業や羊の飼育、エコファーマー栽培の推進事業などを行っている。