干し柿の里で「柿渋染め」
理想的環境での創作活動が
地域の新しいコミュニケーションに

川 越  戀(れん)さん 60歳

大阪府出身

昭和60年頃より藍染め〜柿渋染めと出会い、現在の創作スタイルが始まる。平成元年には切り絵の初個展、平成7年には切り絵、藍染め、柿渋染めと集大成の個展を成功させる。その後、数々の個展・グループ展を経て平成13年、東出雲町へ。移住後も7回の個展を開催するなど精力的な活動が続いている。

古き知恵を今に蘇らせる柿渋染めという伝統的技法

 京羅木山(きょうらぎさん)中腹に広がる東出雲町上意東畑地区。県内有数の「干し柿の里」で知られる同地区は、晩秋にはたくさんの干し柿が農家の軒下を飾り、 季節に鮮やかなアクセントを添える。そんな畑地区で、「柿渋染め」の創作ギャラリー「染工房灯花」を主催する、川越戀さん。平成13年、 夫婦揃って大阪から東出雲町に移住。以来、マイペースな創作活動を続けている女性だ。
 柿渋染めとは、青柿(渋柿)を1年以上自然発酵させた後、その上澄み液(柿渋)を使って染め込む技法で、古くから紙材などの染色補強などに利用されてきた。 近年では衣服や小物類の染料としても人気があり、とりわけ川越さんは藍染めと組み合わせるな ど、独自の発想と技術で愛好者、識者から注目を集めている。

見知らぬ土地・島根が最高の創作環境になる

 島根との出会いは、ご主人の夢だった「定年後の田舎暮らし」を実現するための場所探しに奔走していた折、 偶然入手した東出雲町の資料にご主人が興味を示したことに始まる。「近畿圏ばかりを探していたので、馴染みのない島根県なんて…」 と消極的だった川越さんも、役場の担当者の熱心な誘いもあり、熟考の末、東出雲町に行くことを決意する。
 柿渋染や作陶といった、創作家に向けた定住を推進していた東出雲町は、さっそく「柿渋を作ろう会」を発足。さらに、 地元小中学校で柿渋づくり教室を任されるなど、川越さんの移住は町の活性化に直接繋がっている。 「静かな環境で物作りをしたい」という川越さんの希望も、材料となる柿の木に囲まれた、中海を一望する家という最高の環境で実現。 こと“創作”に関しては、移住早々、理想的な舞台が整っていった。

自己の確立で地域に溶け込む 壁を乗り越えた先に見えた楽しさ

 しかし、周囲と歩調を合わせる控え目な山陰特有の気質の中では、はっきり主張する創作家としての性分がうまくかみ合わず、 地域に馴染むまで長い時間を要することになる。
 そうした転入者ならではの問題を払拭できたのは、「とりあえず飛び込んでいくしかない」と始めた地域行事への積極的な参加だった。 「周囲に合わせながらも、“自分はこういう人間なんです”という“サイン(主張)”も送ることに努めました。 そうしたらだんだん自分の立ち位置が見えてきたんです」。
 裏表のない川越さんの気質はやがて周囲にも認知され、作家という個性と相まって、今ではマイペースな地域コミュニケーションを楽しんでいる。
 そして現在、生活路線バス運転手というやり甲斐を見つけたご主人とともに、変わらぬ毎日を過ごす川越さん。地域と結びついた創作も、 作り手同士の交流へと波及し、来春には斐川町の窯元とのコラボレーションも試みるという。そして「教室や工房で体験してもらった物作りの楽しさが、 新しい発想になって町を元気にしてくれれば」と夢も広がっている。
染工房 『灯 花』(とうか)
島根県東出雲町上意東743
(JR揖屋駅から車で15分)
TEL(0852)52−4733
自宅兼工房で不在の時もあるので、電話してから行くのがベター。年に一度行なわれる工房での展示会は、作品の数・種類ともに豊富。事前に工房見学した人には案内状が送られる。