- ふるさとの手紙 石見の秋模様 -
千里、まめにしとるかね。
こっちは朝晩がすっかり寒くなって、 そろそろ冬仕度をしているところだよ。 今年の夏は、暑かったろう。米も大豆もよくできて豊作だったけん、お父さんは機嫌がええわ。 お母さんが出ている加工場の味噌も、今年は、ええのができてね。 小包も送ったから、食べんさいね。朝は、なんぼ忙しくても、ちゃんと朝ご飯を食べないかんよ。ご飯に味噌汁だけでもええが。あと、漬物と海苔と。野菜のおひたしもあれば、それにこしたことはないけど、どうせ作らんでしょ。そう思って、村でできた野菜を使ったカレーやシチューも一緒に入れておいたけえね。村の野菜は有機栽培で安心だし。千里は貧血ぎみだろう。体が資本だから、何でも好き嫌いせんと食べんさいや。
ところで、今年の秋の祭りは、賑やかだったよ。従兄弟の健ちゃんが、神楽の舞をしたんだわ。 なんせ始めてのことなもんだから、親戚中、心配しとったけど、まあ、うまいこと舞った。随分、練習しとったからね。やっぱり、神楽を見て育ったぶん覚えも早いし、体に神楽の調子が染み込んでるんだろうね。村の2つの社中も後継者が心配されとったけど、健ちゃんみたいな若者が入ってくれたら、安心だわ。千里も見に帰ればよかったのにね。今年は、浜田のおばさんもおばあちゃんの大好物の鯖寿司を土産に持ってきてくれてね。そりゃあ、賑やかだった。
そういえば、この間、大豆の加工場のみんなと研修旅行に出かけてきて、そりゃあ、よかった。 去年、三隅町に石本正美術館が出来たでしょ。そこの学芸員さんの話しが、また、うまいこと。いろいろと解説を聞きながら、いい絵を見させてもらったわ。たまには、いいもんだね。お昼は浜田のお魚センターで食べたけど、ハマチやサザエの新鮮な刺身がたっぷりついた膳でね。やっぱり、日本海の魚は美味しいわ。お父さんの土産は、そこで買ったノドグロ。煮付けにしたら、おばあちゃんも喜んで食べんさったわ。それから、浜田の水族館「アクアス」に行って白イルカを見て、帰りには、江津の石見焼きの窯元で陶器を見せてもらって、おしまいは温泉。なかなか、普段は忙しくて温泉にも行けんし、なんと気持ちのよかったこと。今度、千里が帰ったら、一緒に行けたらええね。
で、どがあな、まだ、こっちに帰る気にはならんかい?帰ってきんさいや。お父さんも、おばあちゃんも、待っとるよ。就職先は、浜田まで出れば何とかなろう。浜田までいい道路もできてるし、車で30分ほどだよ。福祉の資格を生かして、どこか施設の試験でも受けてみんさい。田舎はええよ。のんびりしとるし、人は親切だし。食べ物は美味しくて安全だし。若いとつまらんように思うかも知れんけど、やっぱり、心が安らぐのは故郷が一番だと、母さんは思うよ。
お兄ちゃん夫婦も、まだ、当分、こっちに帰れんて言うとったし。千里が帰って来てくれたら、家も賑やかになっていいけどね。まあ、ぼちぼち、決めんさい。それと、正月休みは何日に帰るか、連絡しなさいね。お父さんが浜田まで迎えに行くから。
じゃあ、風邪をひきなさんな。もし、ひいたら、うがいして温かくして早く寝ること。みかんの黒焼きや、梅干し番茶、生姜湯もええよ。体には、くれぐれも気いつけんさいね。

平成14年11月

母より

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弥栄村農産物加工場
弥栄村には、今年の夏、地元で採れた新鮮な野菜を加工する農産物加工施設が完成した。弥栄村といえば、地元で栽培される有機大豆や野菜、また、それを加工した味噌や醤油などで知られている。最近では、地元の有機野菜のレトルトのカレーやシチュー、パスタソースも販売。「心と体によいもの」をモットーに、丹念に加工品が製造されている。衛生的にシステム化された新しい工場の完成によって、野菜作りに励む農家のみなさんの間にも活気が生まれている。
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石見焼
石見地方では、昔から焼き物が盛んだ。それは、粘りがあって腰が強く、高温に耐えうる良質な土が産出されてきたからだ。中でも、江戸時代末期から全国に販売された「はんど(水瓶)」や漬け物瓶が有名だったのは、その土で焼いた陶器は水もれがなく酸に強いからだ。今は生活雑器も作られていて、皿やカップ作りなどの陶芸体験もできる。
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浜田地方の石見神楽
石見神楽は、テンポの速い「八調子」と、ゆるやかな「六調子」があり、浜田や江津周辺に伝わっているのは、きらびやかな衣装で豪快に舞う「八調子」の神楽。以前は、どこの神社でも氏子が集まる公会所などで、夜の9時ごろから夜明けまで舞われていた。ふるさとの神楽は、理屈ぬきで石見の人々の身体に染み込んでいる宝物だ。

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