- ふるさと歳時記 静と動が交差する出雲の冬景色 -

懐かしい、故郷ならではの冬景色
横殴りに吹き付ける風と雪。平野の雪は多くて15センチ余りと、そう多くはないが、とにかく風が強い。出雲平野の冬は、まるで風がケンカ腰で闘っているようだ。
その風雪に耐えながら、きちんと刈り込まれた築地松がどっしりと立ち、荒れ狂う冬将軍から暮らしを守っている。今でこそ少なくなったが、築地松は出雲地方独特の風景であり、雨風や雪から家屋を守るという理にかなった先人の知恵から生まれた。
古来、出雲には全国から神様がお集まりになり、その年の豊作や縁談についての会議が出雲大社で行われるとされてきた。その出雲大社のお膝下の大社町では、毎年、新年を祝う伝統行事「吉兆さん」と「番内さん」が行われている。
今年は、14の各町内の吉兆幡が昨年の5月に新調されたことから、例年なら半分ずつの町内で行う行列も、全町内の参加で賑わった。「年徳神」の文字が縫い込まれた高さ10メートルの赤い錦の幡を立て、新年の年男がきらびやかな神楽衣装と鬼の面を着けた番内に扮し、行列を先導する。詰めかけた初詣の参拝者や町内の子どもを見かけると、大きな声を出して近寄り悪魔払いをして歩く。その鬼の面と声に怯え、子どもたちは決まって泣き出す。なくてはならない故郷の正月風景だ。
*「吉兆」と呼ばれる幡は、神様の依代(よりしろ:神様が招き寄せられて乗り移るもの)として奉じられる大のぼりのこと。丈が4〜6メートル、幅が1メートル前後と大きいもので、金糸で中央に「歳徳神」、縁に竜や鶴亀、松竹梅が色鮮やかに刺繍してある。

暮らしに溶け込む、ありのままの自然
国内で7番目の大きさを誇る宍道湖は、西日本で最大級の渡り鳥の飛来地だ。近年、平田市に宍道湖グリーンパークが整備され、この時季、バードウォッチングを楽しむ多くの人々で賑わう。しかし、住民は、普段からコハクチョウやマガンが冬色の空をブイの字になって群れ飛ぶ姿に、「今年も来たね」「あら、今年は多いだないか」「また、来年も元気で来るだわ」と、庭先で声をかける。動物や自然が、人の暮らしの中に当り前のように溶け込んでいるのだ。
そして真冬の日本海は、岸壁に怒涛をたたきつける。荒れ狂った海に漁師は船を休ませる日も多く、出漁しても天候の変わりやすいこの時季の漁は命がけだ。しかし、冷たい海水が魚たちの身を引き締め、さらに脂をたっぷりとのらせる。ブリ、ヒラメ、サザエ、アワビ、シロイカ…。魚介類独特の甘味と、こりこりした身が口の中でとろけていく。海の幸と出雲杜氏が仕込んだ豊潤な地酒が口の中で適度に混ざり合い、それをくいっと胃袋に流し込む瞬間、至福の喜びが込み上げる。寒い季節ならではの贅沢だ。
一方、中国山地では、1月から3月初旬まで雪に囲まれて静かな日々が過ぎていく。音もなく、しんしんと降り積もる雪が野も山もすべてを清め、辺り一面を銀世界に塗り変える。人々は、凍るような澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込み、白い息を吐く。自ずと学ぶ自然の威厳。風土が人を育むのならば、出雲人の打たれ強さは、冬の厳しさのたまものかもしれない。
乾いた雪が「だんべら(ぼたん雪)」に変わるころ、山の小川のせせらぎにネコヤナギの芽が膨らみ、フキノトウが顔を出す。縮こまった身体を解き放つ春は、もうすぐそこまで来ている。


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佐田の特産「はしなみこんにゃく」
スサノオノミコトが地名を付けたという佐田町に、10年余り前から新しい特産品が誕生しいている。それは、芋から地元で栽培された手作りコンニャク。「はしなみこんにゃく」と名付けられた新顔の名物は、橋波地区のお母さんたちによって味が染み込みやすく作られていて、一つひとつに愛情がたっぷり。一度食べたら、そのしこしことした歯応えが忘れられない。煮しめや炊き込みご飯に欠かせない、ふるさとの味として好評だ。

ふきのうとう味噌
小川のせせらぎが、歌うように春の訪れを知らせる如月の末。黒い土の上に、若草色の帽子をかぶって頭を出すふきのとう。冬の間に溜まった毒を消してくれそうな苦みと、山の香りが身体を呼びさましてくれる。この時季、ご飯を何杯でもおかわりしてしまいそうな、おばあちゃんが作ってくれた「ふきのとう味噌」が妙に食べたくなってしまう。

出雲地方の節分行事
その日から春が訪れるとされている立春。その前日が節分の日だ。「鬼は外、福は内」と、大きな声で豆をまいて厄を払い、1年の無病息災を祈る。出雲弁にも「まめなかね(元気ですか)」という方言があるのは、豆が健康によいことから。また、昔は「ヤークサシ」といって、カヤの真ん中を割り、そこにヒイラギの葉とイワシの頭を挟み、女性の髪の毛を巻き込んだものを戸口や出口に差し込んで魔除けにしたという。※作り方は各地さまざま

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