- ふるさと歳時記 実りの秋 -
透き通った高い空。柔らかな太陽の光を浴び、刈り取った田にこぼれ落ちた米粒をついばむスズメのにぎやかなさえずり。山々から生まれ来るような心地よい風に乗り、ハデに掛けられた稲の匂いがあたりを満たしている。山里は今年も、実りの季節を迎えた。
奥出雲の米はおいしい。「仁多米」として全国の食通をもうならせる。標高が高いため昼夜の温度差が大きいことや、積雪が多い一方で夏の気温も高いことなどの自然条件に加え、人の手間をかける農家が多いことも、おいしさにさらに磨きをかけている。
横田町の馬木地区で生まれ育った田食千恵子さん(85)は、この地で米を作り畑を耕し、5人の子どもを育てあげた。現在では、主に息子夫婦が農作業をしてくれるが、それでも2頭の牛の世話はやめられない。牛の糞が堆肥として土地を豊かに保ち、そこで育てた稲を刈り取ると天日に干す。そのわらが牛の餌になる、という仕組みだ。しかも、田んぼには山からわき出す清水が流れ込んでいる。格別においしい米の秘密は、自然の恵みはもちろんのこと、昔ながらの農法そのものにあったのだ。
そんな豊かな実りに感謝し、家族の無事を喜び、次に来る1年の健やかさを願う思いは、今でも集落あげての秋祭りとして受け継がれ、暮らしの中に深くとけ込んでいる。
仁多町下阿井地区の「押興神事」は、その年嫁に来た者は家族と一緒に必ず晴れ着で参拝するというほど、1年で最も大切な行事だ。この祭りは、神社の石段上から投げ落とされた重さ約150kgのみこしを、二組に分かれた男たちが押し合うという勇壮なもの。かすりの着物にたすき掛けの男たち約100人が、自分の地区の側にみこしを寄せようと必死の攻防を繰り広げるのだ。
900年もの歴史を持つ神事に粗相がないよう、万全の準備に取りかかる男たちの傍らで、祭りに合せて帰省する子どもたちや客のために、もてなし料理の段取りで大忙しの女たち。献立談義に花が咲き、塩漬けしておいた山菜や、畑の野菜の出来具合いと相談しながら、我が家自慢のごちそうがさらにひと工夫される。
自然の働きに感謝しながら労力を惜しまない人々の営みの結晶が、それぞれの家の食卓を豊かに演出してくれる季節。自家製の米や野菜で調理した、見慣れた我が家の食事こそ、他に比べようもないとびっきりのごちそうに違いない。

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奧出雲のお祭り料理
お祭りの楽しみのひとつに、各家庭で味わう「お祭料理」があります。最近は仕出屋さんに注文したりすることも多くなりましたが、「お煮しめ料理」は手間をかけて作る家庭がまだ多いようです。手作りこんにゃく、たけのこ、山菜、干し椎茸などがお鉢にならび、ふるさとの味を演出します。

千恵子おばあちゃんの畑だより
母屋より一段高いところに作られた畑には、大根や白菜など十数種類の野菜が作られている。都会地に住む子や孫にも自慢の米と一緒に送るが、「うちのが一番おいしいと言ってくれる」と、千恵子さんはうれしそうだ。実年齢からは想像できない艶やかな白い肌にピンク色の頬。思わず「きれいですね」と言うと、本気で照れた。その人生のほとんどを、農作業をし続けてきた人とは思えないほど背筋もピント伸びている。帰り際、「何のもてなしもできんで」と、観賞用の小さな黄色いカボチャを握らせてくれた。
母屋より一段高いところに作られた畑には、大根や白菜など十数種類の野菜が作られている。都会地に住む子や孫にも自慢の米と一緒に送るが、「うちのが一番おいしいと言ってくれる」と、千恵子さんはうれしそうだ。実年齢からは想像できない艶やかな白い肌にピンク色の頬。思わず「きれいですね」と言うと、本気で照れた。その人生のほとんどを、農作業をし続けてきた人とは思えないほど背筋もピント伸びている。帰り際、「何のもてなしもできんで」と、観賞用の小さな黄色いカボチャを握らせてくれた。

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